ゴッゴルベリーの冒険 【序章】(2)

 この作品は、【序章】(1) の続きです。



 ゴッゴルベリーの家には塀も庭もありません。あるのは古ぼけたささやかな小屋だけです。
 家の前に止まった馬車は、4馬立ての豪奢な馬車でした。
 いったい何事かと、ゴッゴルベリーとお母さんは家から飛び出しました。目の前には大きな車輪があります。二人は顔を上げ、ぴかぴかのドアを見上げました。


 馬車の扉が開きました。
 降りてきたのは、仕立ての良いスーツを着た紳士です。鮮やかな金髪にも口ひげにも、一筋の乱れもありません。
 紳士は周りを見渡して、ゴッゴルベリーを見つけるとにっこり笑いました。
 「きみがゴッゴルベリーくんかな?」
 ゴッゴルベリーは、元気よく「はい!」と答えました。


 「失礼ですが、」お母さんは、ゴッゴルベリーを背中に隠して、紳士に問いかけました。「この子に何の御用でしょうか?」
 「失礼しました、奥さん。この子があまりに彼に似ていたもので。」紳士は、やわらかく微笑みました。「私がお訪ねしたのは貴女です。私のことをお忘れですか、ゴッゴルニアの善き魔女殿」
 ゴッゴルベリーは驚きました。お母さんのことを魔女だなんて!! 不思議な紳士は、不思議なことを言います。
 「まあ、懐かしい呼び名ですこと」お母さんは、眉をひそめて小首をかしげました。そして、瞳を瞠りました。「あぁ、あなたは。ゴッゴルニア騎士団の」
 そこで紳士は人差し指を振って、お母さんの言葉を止めました。
 「お久しぶりです、レディー。私がお訪ねしたのはゴッゴルベリー君ではなく貴女です」紳士は懐かしげに目を細めると、一転して目を伏せました。「貴女に伝えることがあるのです。ゴッゴルニアの未来と、この子のお父さんのことについて」


 お母さんの顔が曇りました。紳士が悪い嘘をつくような人ではないことを知っているようです。お母さんは紳士を家に招き入れました。
 「ゴッゴルベリー、あなたはお母さんの代わりにメリーおばさんのところへ行って、お店のお手伝いをしてきて頂戴」「人手が足りなくて、きっと困ってるわ」
 ゴッゴルベリーは遠くから来た紳士のお話を聞きたくてウズウズしていたのですが、たしかにメリーおばさんの店も気になります。毎日お手伝いに行ってるお母さんがいなくて心配しているでしょうし、子供心にもお給金が気になります。ゴッゴルベリーは宿屋のメリーおばさんのところに、お手伝いに行くことにしました。


 「あの紳士は遠くからやって来たに違いない。あんな立派な馬車に乗って来たんだもの」
 ゴッゴルベリーは、紳士が帰ってしまわないうちにと、大急ぎでメリーおばさんのところに行きました。
 ゴッゴルベリーは、メリーおばさんに謝って、お母さんの代わりに無我夢中で働きました。
 気のいいメリーおばさんが、ゴッゴルベリーの子守をしてくれたことになど、ちっとも気づきませんでした。
 そして、日が暮れるまで一生懸命お手伝いをして、やはり大急ぎで帰ってきました。


 「おかあさん、ただいま!!」ゴッゴルベリーは息を切らせて家の扉を開けました。
 「おかえりなさい」そうお母さんが答えてくれるはずでした。いつもなら。


 でも、誰も何も言ってくれません。
 ゴッゴルベリーの家は、からっぽでした。誰も、居なかったのです。


 (続く)(かもしれないが、例によって続きを考えてません・・・)


 この小説モドキは、オムニバス小説ゴッゴル参加作品です。