ストレージサービスによる著作権侵害判決について

 やっと一次ソースである判決文『イメージシティ事件判決(PDF)』を見つけましたので、一読しました。
 色々誤解していた部分が多かったです。
 判決の要旨と自分なりに思うことをメモしておきます。

主文等

件名
著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件
原告
イメージシティ株式会社
被告
社団法人日本音楽著作権協会
請求
「MYUTA」の名称により原告が行うサービスの提供について、被告が著作権を有する者から委託されて管理する音楽著作物の著作権に基づき、これを差し止める請求権を有しないことを確認する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

争点一、複製権について

判決の要旨
  • 原告所有のサーバーにて複製が行われたことに争いは無い。(ただし原告は利用者による私的複製に相当すると主張)
  • 複製の主体が原告であるか利用者であるかが争点。
  • 判決では、複製の意思は利用者が持っているとしても、携帯電話への複製の方法やその環境を一般の利用者が用意することは技術的に困難であり、それらを与えた原告が複製の主体と認めた。
sasadaの見解

 その手段と環境の利用に同意し、実際に利用手順に従って利用した利用者は、複製の意思を持ち主体的にそれを行った者であるから、複製の主体と認められる。よって、複製の主体は原告ならびに利用者とするのが正しいのではないか。
 当該サービスによる複製が、利用者のパソコン上でのバックアップと同様の私的複製に当たるかどうかは判断できず。個人的には不満だが、現行法と判例から言えば、被告の管理する複製権が及ばない、とは言えない気がする。多少拡大解釈気味だけど。
 本件での判断『原告は,本件サービスの提供により,管理著作物の複製権を侵害するおそれがある。』は妥当だが、利用者も同罪だとは思う。
 ただし、将来の有料化が予定されていた(利用者も利益を得てるが原告に対価を支払う)ことから、カラオケ法理が適用され、『当サービスの受益者(権利侵害の主体)は原告』と認められるのが適当だと思う。

争点二、自動公衆送信権について

判決の要旨
  • サーバーから携帯電話に自動送信が行われたことに争いは無い。
  • 送信行為が、公衆、すなわち、(本件では特定多数者ではなく)不特定者に対して行われたかどうかが争点。
  • 判決では、『会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。』との理由で、不特定者に対する送信(公衆送信)と認めた。その上で、サーバー管理の主体者が原告であることから自動公衆送信権の侵害の主体が原告であるとした。
sasadaの見解

 利用者登録を義務付けアクセスキーで送信データを制限している以上、サービス上は特定者と断じるべき。『メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別』(判決文より引用)を以って特定者と認められないのでは、インターネット上での利用者の特定は技術的に困難である。原告がユーザーを選別できない、つまり当初は不特定者であったとしても、利用者登録を受理しアクセスキーを発行した時点で、利用者は特定者になったと解釈するのが相当。
 このシステムで当該利用者以外がデータの送信を要求した場合、それは不正アクセスであり、違法行為である。原告にはそのような利用形態を通常のものと想定する義務は無く、自動送信の対象を不特定者とするには無理がある。
 よって、原告が自動公衆送信権を侵害したとするのは不当だと思う。

結論について

判決の要旨

 本件における音楽著作物の複製は原告が行い、自動公衆送信も原告が行っているから、それらの行為は、被告の許諾を受けない限り管理著作物の著作権を侵害するものである。よって、音楽著作物の蔵置及びユーザの携帯電話に向けた送信に対して、被告は差止請求権を有するものである。

sasadaの見解

 本件における音楽著作物の複製は原告と利用者の共同行為である。ただし、原告はサービスの対価を得ることを予定していたので、(カラオケ法理により)複製の主体は原告と言える。よって複製権の侵害行為に対して、被告は音楽著作物の蔵置への差止請求権を有すると考える。
 また、原告による自動公衆送信権の侵害はなかったと思うが、当該サービスでは音楽著作物の蔵置及びユーザの携帯電話に向けた送信が一体のものとなっているので、複製権の侵害を防ぐ為に、ユーザの携帯電話に向けた送信に対しても、被告は原告への差止請求権を有すると考える。

感想

 今回の地裁判決には一部現実的でないと思えるところも有るし、控訴(抗告?)すれば高裁判決でひっくり返る部分も有るかも。特に自動公衆送信はアヤシイです。
 一方、多くの方が不安に思っている、「ストレージサービス全滅」とか「メールもヤバイ」というのは誤解のようです。今回の判決でも権利侵害データの実質的管理者が権利侵害の主体であるとの考え方に基づいてます。メールサーバの様に多くのデータのごく一部に権利侵害データがあるかもしれない場合に今回の判決がそのまま適用されるとは思えません。拡大解釈さえされなければ(^^;

行き先の無い文句

 著作権法を改正してでも、デジタル情報の私的複製・利用をもう少し幅広く認めてもらえないものでしょうか。正直者にとって束縛が多すぎ。
 現行法では権利団体ばかりが肥え太り、嫌気が差した正規の利用者がどんどん減り、結局本来の著作者の懐も寒くなる気がしてなりません。